2025年11月19日
アライブ品川大井ホーム長の坂爪です。
今日は少し胸が痛むお話を通じて、介護における「尊厳」について考えたいと思います。
私が介護の仕事を志した時、実習にお伺いしたある(公的な)施設で見られた光景です。そこでは、ご入居者と職員の関わりに違和感がありました。
「ここに座っててください」「ちょっと待って」「やめてください」「ダメです」
そのような言葉が飛び交う中、ご入居者はどこか怯えるように職員の顔色をうかがっていました。忙しそうに働く職員たちの背中からは「寄り添う温もり」が薄れているように見えました。
特に忘れられないのは、ナースコールをめぐる一場面です。あるご入居者が助けを求めてコールを押しました。最初は「ちょっと待ってて」と返事があったものの、数分経っても誰も来ない。再び押すと「後で行きます」とだけ告げられ、さらに10分後、三度目に押したときには「待ってと言ったじゃないですか」と冷たく返されました。その後、その方が再びナースコールを押すことはありませんでした。
「ここはいつもそうだよ。忙しいからって忘れちゃうんだ。邪魔にされてる気がするよ。もう死にたいよ…」
そうつぶやかれたご入居者の声は、胸を締めつけるほどに重く、福祉を志す者として忘れられない言葉です。助けを求めたくても、拒まれることへの恐れから声を上げられなくなる——それは人の尊厳を深く傷つけるものです。
別の日、食堂での出来事です。ご入居者の誘導が終わると職員たちが一斉に休憩に入る、そんな暗黙のルールがありました。そのとき、一人の男性が「トイレに行きたい」と立ち上がりました。歩行が不安定で、介助がなければ転倒の危険がある方でした。しかし誰も動こうとしません。ある若い職員は椅子に座りタバコを口にくわえたまま、「そこで座って待ってろって言っただろ。何回言わせるんだ」と突き放しました。
尊厳も安全も保たれない、危険な状況だと感じたため、実習中でしたが、私が介助に入りました。しかし、その後指導担当の職員から「言われたことばかりをしていたら、癖になってしまう」と注意を受けました。この時の光景は今でも心に焼き付いており、介護の仕事をする上での強い反面教師としています。
介護は「ただ安全を守る仕事」ではありません。人と人とが心を通わせ、その人らしさを尊重し続ける営みです。小さなお願いに耳を傾けること、笑顔や一言に応えること、そこにこそ介護の原点があります。
このエピソードは決して美しい話ではありません。しかし、だからこそ私たちが忘れてはいけない教訓だと思います。ご入居者にとって「ここにいてよかった」と思える関わりとは何か。日々の忙しさに追われてもなお、人の尊厳を最優先に守れるか。介護の現場に立つ私たち一人ひとりが、常に問い続けなければならないのです。
私たちが大切にしているのは「尊厳ある暮らしの実現」です。ご入居者の人生に寄り添い、「自分らしくありたい」という願いを最後まで支えること。
介護の現場には、時に心を揺さぶる厳しい現実があります。しかし同時に、笑顔や感謝の言葉、そして小さな希望に満ちた瞬間もあふれています。だからこそ私たちは学び続け、成長し続けます。すべては、ご入居者に「このホームでよかった」と思っていただける未来をつくるために。
これからも、尊厳を守り、希望を紡ぐ介護をお届けしてまいります。




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