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消えなかった痕跡

2026年10月10日 

平素よりアライブ目白の運営に、深いご理解と温かいご協力を賜り、心より御礼申し上げます。
ホーム長の柳町です。

以前、【消えていく痕跡】という文章を書きました。

あるお客様の腕に見つかった、
小さなアザの話です。

転倒はなく、
痛みの訴えもない。
原因もはっきりしない。

ただ、
皮膚の上に痕跡だけが残っていました。

そのアザをきっかけに、
私たちは介助について話し合いました。

より安全にするため、
二人で介助したほうがいいのではないか。

一方で、
ご自身で身体を支えようとする力まで、
こちらが奪ってしまわないか。

事故を避けたい。
けれど、奪いたくない。

あのとき、
一つの答えは出ませんでした。

それからも、
その方の生活は続いています。

そして、
アザもなくなってはいません。

薄くなったものもあれば、
別の場所に小さく見つかることもあります。

更衣のとき。
入浴のとき。
排泄介助のとき。

職員は以前より、
その方の皮膚を見るようになりました。

「ここ、前からありましたか」
「昨日より少し薄いです」
「この辺り、介助のときに当たっていないか」

小さな痕跡を見つけるたび、
原因を探します。

いつできたのか。
どこかにぶつけなかったか。
介助の方法に問題はなかったか。

見落としていることはないか。

ただ、
一つだけ変わったことがあります。
アザだけを見なくなりました。

ある日の排泄介助でした。

その方が、
手すりに手を伸ばしました。

ゆっくりと指が触れ、
握る。

少し時間をかけて、
身体を起こそうとする。

職員は腰の近くに手を添えながら、
その動きを見ていました。

身体が少し傾く。
職員の手が支える。
また、ご自身で力を入れる。

ほんの数秒のことです。

生活のほぼすべてに、
誰かの手が必要な方です。

身体を支える。
衣服を着替える。
車椅子へ移る。

その一方で、
その方自身の手も動いています。

手すりを探し、
肘掛けを握る。
身体を支えようとする。

ほんのわずかな動きです。

けれど、
介助する側が先に身体を支えてしまえば、
その動きは必要なくなります。

もっと支えれば、
もっと安全になるかもしれない。

もっと動きを抑えれば、
アザも減るかもしれない。

けれど、
その「もっと」の先に何があるのか。

前回から残っている問いです。

だからといって、
アザを仕方のないものとして扱うわけではありません。

原因を考える。
防げるものは防ぐ。
介助方法を見直す。

必要なら、
支える手も増やす。

ただ、
皮膚に残ったものだけを見て、
その方の暮らし全体を決めないこと。

安全を積み重ねた先で、
その方自身が動く理由まで
なくなっていないか。

そこは、
見失いたくないと思います。

先日も、
その方の腕に小さなアザがありました。

職員が見つけ、
看護師と確認し、
記録に残しました。

その日の記録には、
もう一つ書かれていました。

「左上肢で手すりを握り、立位保持される」

同じ腕のことでした。

皆さまとのご縁を、心よりお待ち申し上げております。

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