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あつくないですか

2026年6月19日 

平素よりアライブ目白の運営に、深いご理解と温かいご協力を賜り、心より御礼申し上げます。
ホーム長の柳町です。

最初に変わったのは、
日本語のうまさではありませんでした。

声の出し方だったように思います。

まだ配属されて間もない頃、
海外から来たスタッフは、
お客様に何かをお伝えするとき、
一語ずつ、確かめるように話していました。

急がず、
飲み込まず、
曖昧にせず、
相手にきちんと届く形を探すように。

その慎重さは、
不慣れさでもありましたが、
同時に、
介護に必要な礼儀そのもののようにも見えました。

ある日、
食後のリビングでのことでした。

お客様のお一人が、
テーブルの上の湯呑みに手を伸ばしかけて、
少しだけ止まりました。

ほんの短い間です。
まわりから見れば、
気づかず通り過ぎてしまうほどの間でした。

そのとき、そばにいたスタッフが
静かに声をかけました。

「あつくないですか」

流暢な日本語ではありませんでした。
少したどたどしく、
けれど、
相手の手元をちゃんと見た声でした。

お客様はそのスタッフを見て、
少し笑われました。

「大丈夫。ありがとう」

それだけのやり取りです。

けれど私は、
この人はもう言葉ではなく、
相手を見て仕事をし始めているのだと思いました。

別の日のことです。

そのスタッフは、
お客様にお茶をお出ししたあと、
しばらくその場に立っていました。

何か次の業務を待っているようにも見えましたが、
実際には違いました。

お客様が湯呑みを持ち上げるまで、
その手元を見ていたのです。

「どうして、まだ行かないの?」

あとで職員がそう聞くと、
少し考えてから、こう答えたそうです。

「ちゃんとのめるか、見たかったです」

うまい説明ではありません。
けれど、その言葉には
この人の『介護』がそのまま出ていました。

できるかどうか、ではなく、
安心してできるかどうかを見ている。

早く動くことより先に、
相手の時間に目を合わせている。

慣れてしまえば、
人はつい急ぎます。

分かったつもりになり、
伝わったつもりになり、
できるだろうと思って通り過ぎてしまう。

その意味で、
彼ら、彼女たちの慎重さは、
いまの私たちの現場に
静かな問いを置いてくれているのかもしれません。

どうしたら、もっと伝わるだろう。
この声のかけ方で、安心していただけるだろうか。

お客様にとって大切なのは、
どこの国から来た人か、ではありません。

そばにいる人が、
自分をきちんと見てくれているかどうかです。

その安心は、
流暢な言葉より先に届くことがあります。

目の向け方。
手の出し方。
ためらい方。
声の温度。

そういうもので、
人はこの場所の質を知っていくのだと思います。

もしよろしければ、
そうした日々のやり取りの中に育っている
私たちの空気に、
ふと触れていただけたらと思います。

『あつくないですか』
その一言の置き方の中に、
その人をどう見ているかは、
もう出ているのかもしれません。

皆さまとのご縁を、心よりお待ち申し上げております。

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